生誕

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何一つ欠けたところでこの美しさは完成しないだろう。 儚く、そして強く逞しい、美しい輪だ。この輪は生きている。 まるで全てで一つの生命体のように。 その輪こそが、美しさだと私は知った。 命は他者のために存在しているからこそ、このように儚く美しい光に満ちている。 長い間私はそれを見ていた。世界の輪に乱れの無いよう、監視の役目も担っていたが、このように美しい形を、私は他に見なかった。 私はその美しさを形成する一つ一つ全てを愛した。 生物、生命、水を作るもの、芽吹くもの、食うもの、食われるもの、その全てを例外なく、私は愛した。 その全ての何一つ欠けてしまってはいけない。 だというのに、全ての生命が正しく廻り、循環していた完璧で美しい輪から、抜け出る者が現れた。 人間。 人間は、途方もない時間を刻み続けているこの世界で、他の生命に比べれば未だ未熟で、この大地を踏みしめ歩き始めたばかりの、これもまた美しい生物だった。 私は人の生まれる瞬間も見た。それを私は私の子であるかのように愛した。     
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