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『 0 』
結局、俺は眠ることができなかった。一晩中、布団のなかでうずくまり、色々なことを考えた。そして、それに行き詰まっては、ラジオを点けたり、消したりを繰り返し、とにかく落ち着くことはできなかった。
──朝か。
ラジオを点ける。ノイズ混じりの音声が流れ出した。
『……──月20日午前5時……分をお知らせします。現在、地球に接近中の小惑星……は、当初の予測通り本日正午頃に、地球に最接近する見込みです。皆様、ご自分の身の安全を守る行動を──』
そして、すぐにラジオを消した。
布団の外で、何やらごそごそと動き回る気配がした。俺も布団を払いのけ、ようやく起き上がる。
「もう、行くのか。」
マキナは既に玄関に居て、出かける準備をしていた。こんな早朝に、上下ブルーのジャージに身を包んだ彼は、まるで合宿にでも行く学生のようにも見えた。
「おや。あなたも、今日は随分と早起きですね。これから、何処かへ行かれるんですか。」
「ううん、別に。家にいるよ。」
「おや。こんな日に、いいんですかぁ。誰か共に身を寄せ合って、過ごしたい方は? 」
マキナは意地悪く笑う。
「うるさいなぁ。いねぇよ、いいんだよ。」
「そうですね。何事もこれからですし。今日はただ、私が帰った時に、祝勝会を開く準備でもしながら、のんびり待っててくれて構いませんよ。」
「そうするよ。」
俺は小さく笑った。
「──では。そろそろ、行ってきますね。」
「なぁ、マキナ──」
「なんでしょう。」
「ううん、やっぱ何でもない。──頼んだよ、ヒーロー。」
そして俺は、朝焼けの中に遠ざかるマキナの背を静かに見送った。
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