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「よぉ、久しぶり。」
電話をかけながらよっかかるとすっかり小さくなった椅子がギィと鳴る。
「どうした、金なら貸さねぇぞ。」
「いやさ今帰ってきてんだ。まだ残ってんのもお前ぐらいだろ。」
「リストラでもされたか?」
「俺さ、結婚するんだ。」
そう言ってもう一度見渡した。あの頃はあんなに広くてなんでも出来たのに今は随分と小さくなった部屋。
名前通りに使われず落書きばっかの机。タイムマシンで昔に戻してくれないかな。
そんなアホな期待を裏切って引き出しはガラクタばっか。壊れたロボットに削れたベーゴマやら。
それでもやっぱり懐かしくて窓から入る赤色の光にかざして見た。
そして一際目を引く宝箱と書かれたクッキーの缶。
さぞ大層な物でも入ってるんだろうな。そうやって開けると空気の抜ける気持ちいい音とホコリがいっぺんにやってくる。
「あのさ・・・大人にならない同盟って覚えてるか?」
宝箱の中に入ったおはじきやらラムネのビー玉やらに混じって四つ折りに入ってる黄ばんだ紙を見つけた。
「誓いますの漢字、間違えてんじゃん。」
「馬鹿だったからなぁ。」
ああ、そうだった。
大人にならないことを近います 宇宙飛行士 佐藤博 そしてダサめのサイン。
「あいつだけ大人になれなかったな。」
あれ、そうだったっけ。なれなかったんだっけ。
「いや俺たちがなっちまったのかもな。」
「ははっ、全くその通りだ。」
遠い遠い夏に僕たちは夢を見た。サッカー選手にプロ野球選手、ウルトラマンなんてやつもいた。
重ねた五つの手は夢に向かった。はずだった。
「あの頃はただ大人なんてカッコ悪い普通が嫌だったのにな。」
「ああ、ヒーローになりたかった。」
「・・・今度飲みに行こう。帰りに墓にでもよってさ。」
「そうだな、一抜けしてったんだ。愚痴ぐらい聞いてもらわなきゃな。」
普通を強いられて、普通に染まっていく。そんなただ普通のことが普通に耐えられなかった。あいつはアッチでヒーローになれたかな。
僕たちはいつの間にか捨ててしまったから。
「ヒロシ!あんた嫁さんほっといてなにやってんの!早く手伝いな!」
でも母親に呼ばれていやいや向かう今の僕にだってまだ残ってる。
そっちに行くまできっと残ってるから。だからまた秘密基地で待ち合わせよう。
「今行くって!!!」
子供みたいに言い返して宝箱を元の場所に戻すと僕の部屋を後にした。
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