あるいは首吊り死体に遭遇した際の心構え

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 首吊り。  そこーーといっても空中なんだが。  驚かなかった、と言ったらウソだな。  ああ、ウソになる。  目覚めたら頭の上に。  首吊り死体が、そこにあったんだから。  ちょっと飲み過ぎた。  いやいや、こいつもウソだね。むちゃくちゃ飲んだんだ。  ナントカという名目の合コンのたぐいで・・・ま、それはいい。  車なんか乗れない。都心の繁華街からタクシーで帰ってくるつもりなんてない。浪費は嫌いだ。  あんまり覚えていないけれど。  電車を乗り継いで。俺様は、なんとか自宅近くまで戻ってきたーーらしい。  らしい、というのは。  駅から降りてーーああ、最終電車ね。  人気のない郊外駅の、シャッターが閉まった・・・深夜の商店街を抜けて。坂をのぼり始めたあたりで沈没したみたいだから。  で、何時間たったのか。  意識を取り戻して。  最初に視界に飛び込んできたのが、そいつだったのさ。  宙に浮いている脚。  いやいや、脚だけが宙に浮くはずないだろ。  幽霊なら脚がないのが相場ーーというのも古臭いけれど。  幽霊なんているはずがないし、宙に浮く脚もありえない。  だから。  その上を順に見ていくと。  だらーんと垂れた腕と。  のびきった首と。  ばさっ  と髪がかかって。表情のまったく分からない頭があったわけだ。  つまり。  俺様の前には電柱があって。  その、かなり上の方に『ヒモ』が結ばれていて。  その『ヒモ』からーー人間がぶらさがっていたってこと。  首吊り死体だ。  マジでマジで。  アルコールの幻覚なんかじゃあ、ない。
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