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「いや、だってこの子がさ。どこの子なの?」
私は困り果てた声を出して、ベッドでくつろぐ子どもを指さした。
するとお母さんは怪訝そうに眉を寄せる。
「何言ってるの? ふざけてないで早く着替えなさいよ」
「いや、だからこの子連れてってよ」
お母さんは私が指さす先と、私を交互に見ながらますます眉をひそめる。
「この子って?」
「いや、だからこの……」
その時、子どもがニヤリと左頬を上げた。
私はその不敵な笑みに目を奪われ、この子どもは一体何なのかと、背筋がすっと冷たくなるのを感じた。
「あんた、大丈夫?」
と、お母さんは青ざめる私を眺めて、また心配スイッチが入りそうになっていた。
けれどそんなことに構っていられない状況だ。
「だ、大丈夫っていうかさ、見えてないの? たぶん、女の子……だよね? ベッドの上に座ってる。白い半そでにデニムのサロペット着てさ。小学一年生くらいの……」
私はお母さんと子どもを交互に見ながら必死に言った。
するとお母さんは「やめなさい」と大声を出した。
「ふざけるのもいい加減にしてちょうだい。お母さんをバカにしてるの? それとも、あんたもお友達と一緒に頭でも打ったんじゃないの? まったくやめてよね」
喚き散らすと、お母さんはそのままドアを勢いよく閉めて行ってしまった。バタバタと慌てて階段を下りる足音が遠ざかっていく。
「え? あんた、なんなの?」
私は半分放心状態で、子どもの方に向き直った。
「アタシはツカイ。アタシを見ることができる人にも、見ることができない人にもそれぞれ理由がある」
「ツカイ? それあんたの名前?」
「いや、名前じゃないよ。ツカイは私の仕事というか、役割というか」
子どもは足を組み替えると、両手を後ろについて体を逸らした。
さっきから偉そうなんだよね、こいつ。いや、それよりも。
「ちょっと分からなさすぎる。ちゃんと説明しなさいよ」
「やっと聞く気になった? いいよ。説明してあげる」
私は子どもから距離をとったまま、とりあえず勉強机の椅子を引っ張り出して座った。
少しオレンジがかってきた陽が、レースカーテン越しにまっすぐ入ってきて、子どもの顔が暖色に染まった。
「アタシはツカイの使命を果たすために来た」
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