1、ツカイという子ども

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「それはさっきも聞いたけど。どこから来たの? あの世とか? あ、もしかしてあれ? 座敷童?」  座敷童にしてはずいぶん現代風の装いではある。 ケミカルウォッシュのサロペットを着ている時点で座敷童って線は薄そうだけど、それしか思いつかない。 「座敷童でもないし、あの世から来たわけでもないよ。ちなみに天国でも地獄でも未来でも過去でもない」 「じゃあどこから来たのよ」 「どこからでもないよ。まあ、その内に察してよ」  無茶を言う。そんなもん察することできる人なんているのか。 「良く分かんないけど。で、使命ってなんなの」 「それそれ。よくぞ聞いてくれました。何回、使命使命言ったことか。もっと早く訊いてほしかったよ」 「んなことはいいから」と私はため息をついた。すると子どもは急に目を細めて俯いた。 「ある人の心を救いに来たの。ツカイの使命は一つ。自死を望む者を救うこと」 「ジシ?」と、私は聞き慣れない言葉にハテナが浮かんだ。即座に頭の中で漢字変換ができない。 「じ・さ・つ」  子どもは口を大きく動かしながら言った。 そして「あなた高校生でしょ? 日本語苦手?」と、今度はかったるそうに首をもたげる。 「いや、あんたがあまりに突拍子もないこと言うからでしょ。っていうか自殺? を止めるのがあんたの仕事?」 「まあ、そんなところ。生きることを望んでない人にしかアタシの姿は見えない」  子どもは射るような鋭い目をして私の顔を見た。 はじめは表情が乏しいなと思ったけれど、さっきからいろんな顔をする。 それはそれで、子どもらしくないというか。 「なにそれ。死神みたい。ていうか私、死にたいなんて一度も思ったことないけど」  まあ、テストの点が悪すぎて死にたいと口走ったことや、中学の時になぜか私だけ水着を盗まれて、犯人がクラスの男子だったと分かった時は、死にたい……と思ったかもしれない。 でも所詮その程度で、本気で思ったことなんて一度もないけれど。 「死神とは失礼な。むしろその逆と言うか」と子どもはぼそぼそと言った。 「あ、あなたはね、別の理由でアタシが見えてるだけだよ。今回の使命はちょっと特別なんだよね」 「特別って?」 「ま、いろいろあるんだよ。じゃあ、そういうことで、私の使命が終わるまでここに居させてもらうね」
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