4人が本棚に入れています
本棚に追加
すごいことをサラッと言うなあ。と私は目を丸くした。
「いやいや。ってかなんで私の部屋なのよ。別に私あんたが助けなきゃいけない人間じゃないんでしょ?」
「うーん。でもあなたに手伝ってもわらないとだしな。とにかく自殺したい人以外でアタシのこと見えるのあなただけだし、協力してよ」
「いやいや、そんなんで納得できるわけ……」
私が声を荒げると、子どもはまた鋭い目をした。
「自殺する人ってこの国だけでどのくらいいるか、あなた知ってる?」
「え? さあ、他の国より多いってこと位しか知らない」
「一日に七十人以上。あなたみたいに、本気で死にたいと思ったことがない人間に、どうしようもなく追い詰められて、自分を責めて、もう生きていけないと自分を殺すことしかできない人の気持ちが分かる?」
私は押し黙った。そう言われては黙るしかできない。
でもそんなことを問われること自体、不快だし理不尽ではないかとも思った。
死にたくない人間は、死にたい人間のことを理解できていないと責められなくてはいけないものなのか。
「ツカイはその人たちの救いとなる存在。アタシは今回、ある人を絶対に救わなくちゃいけない。これは、ツカイとしてのアタシの最後の使命なの」
子どもは突然もぞもぞと動きだし正座をすると、その年齢の子どもには似つかわしくない丁寧な所作で合掌した。
そして深く目を閉じる。
この子の言うことが本当だとしたら、この子はなぜ私のところに来て、なぜ私には姿が見えるのか?
私はその美しい合掌にあっけにとられながらも、そんなことを考えた。
「ねえ、もしかして、そのあんたが救いたい『ある人』って、私に関係ある人なの?」
すると子どもはあっさりと合掌を解いて足を崩した。
「あら、バカじゃないみたいだね」
子どもはその時初めて笑った。ちゃんと、にっこりと子どもらしい笑顔に見えた。
丸い花が咲いたみたいなこの笑顔、どこかで見たことがあるような。
「きっとあなたはここで私を追い出すと後悔する。ま、どっちみち追い出すことなんてできないんだけどね」
「え、追い出せないってどういう……」
「よろしくね。花梨」
「え、なんで私の名前知ってんの。てかあんた名前は?」
「言いたくない」と、子どもはそっぽ向いた。
最初のコメントを投稿しよう!