1、ツカイという子ども

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 とにかく来栖はいつもそんな感じで、おそらく来栖自身の意思とは関係なくみんなに注目されていた。 来栖の顔に常に貼り付いている、あたりさわりが無く整った笑顔も、みんなが来栖に好感を持つ要因の一つだろう。 一年の時から来栖に注目し続けている私としては、二年のクラスメートたちが来栖をもてはやすのはあまり面白くない。  来栖は昼休みには学校へ戻ってきたようで、私とモモと紗羅が学食から教室に戻ると、クラスの半数近くが来栖の周りを囲っていた。 今朝血をどくどく流していた時と変わらない穏やかな表情で、来栖はまとわりついてくるクラスメートに何針縫ったかなどを答えているようだった。 私はその輪には加わらずに席に戻る。 モモと紗羅は当たり前のように来栖を取り囲む群れの中に入っていった。 *  高校からは歩いて帰れる距離だった。わざと家から近い学校を受験したのだ。 松園高校の偏差値は私にとって少し高めだったけれど、どうしても近い学校に行かせたいという母の意向によって、中二の時から人並み以上に勉強をさせられた結果、なんとか入学できた。 私の生活はほぼ全て、お母さんの『心配』によって形作られている。 私は母の心配症にだけは逆らわない。逆らったところで良い事など一つもないからだった。  駅前に差し掛かり、モモと紗羅と別れる。二人とも電車で二十分ほどかけて通ってきていた。 松園高校の生徒の半数以上は、学校から徒歩五分のこの駅を利用している。 都心まで電車で三十分ほどのベッドタウンであるこの辺りは、県内でも有数の人口密度の高い地域だった。 だけど駅の周りにあるのは、微妙なラインナップの数件のファミレスや、かろうじてあるスタバ。 決して品ぞろえは良くない中規模のスーパーや小さな百円ショップ、有名どころは一応揃っているコンビニ。 可愛いスイーツ店は無く、私には存在意義の無い居酒屋や古い商店みたいなのは無駄にちらほらとある。 途中下車の旅では当たり前のように飛ばされてしまうような、特別な物なんて何もない街だった。
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