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草木に囲まれた、小さな池のほとり。
そこは森の生き物達にとってちょっとしたオアシスだった。木々の枝葉に阻まれてそこから青空を見ることはできないが、木漏れ日が降り注ぐオアシスは明るく輝いている。緑と光が池の水に反射して、まだ幼くて小さな僕と亜香里を包んでいた。
擦りむいた僕の腕に大きな絆創膏を貼りながら、亜香里は僕を見て言った。
「キス、してみよっか」
「するか、バカ」
僕は近くを悠々と飛んでいたオニヤンマが気になるふりをして、亜香里から目をそらす。
オニヤンマはその大きくて小さな体の重みを、荻の穂にふわりと乗せた。けれども荻はそれに耐えきれず、次第にぐぐぐと曲がっていく。
彼の複眼は大きな木のすぐ横に座る僕と亜香里をじっと捉えて、そうしてまた飛び去った。
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