トンボ

淡い光

「キスは好きな人とするんだって。だから私は、まさとくんとしようと思ったの」

「おれはおまえのことを好きじゃないかもしれないだろ」

　亜香里はふふっと声を出して笑う。亜香里の笑顔は暖かくて、寂しくて、それでいてどうしようもなく可愛かった。

「そうだね、そうかもしれないね」

「えっ、いや、おれは……」

「おれは、何？」

「なんでもない」

　僕の言葉を聞いて亜香里はまた笑った。おれ、だなんて格好つけちゃってさ。いつもみたいに僕って言えばいいのに。亜香里はそう言いたげでもあった。