2人が本棚に入れています
本棚に追加
そこには故郷の温かさと懐かしさがあった。それと同時に儚さと寂しさもあった。この上ない幸福とこの下ない絶望が振り子のように行き来するような、充実感と喪失感を壺に入れてかき混ぜたような、そんな感覚に襲われた。
僕はわずか数秒に圧縮された何年分もの激しい感情の起伏に、じっと耐えた。グッと歯を食いしばりながら。ふいに、彼女は振り返って僕の顔を覗き込む。まただ。僕の心を見透かしているみたいだ。
僕は強く思う。
この女の子を守らなくてはならない。一生を掛けて。命を懸けて。
こんなに強い感情が沸き起こったのは、これが初めてだ。
それなのに……
そのとき彼女は微笑んでいたが、僕はその微笑みの中に、耐えがたい悲しみが含まれていることを感じずにはいられなかった。僕たちは離れ離れにならなくてはならない、という予感が、僕の頭にフワッと浮かぶ。いや、これは予感ではない。直感でもない。悲しいかな、これは事実なのだ。
「うわああああああああああ」僕は耐えきれなくなり、いつも夢のなかで僕がそうやるように、全身で叫んだ。
最初のコメントを投稿しよう!