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梅雨という名の季節にふさわしく、連日しとしとと雨が降り続いている。
梅雨に入ったばかりで大雨が降るわけではないのだが、どんよりと暗く重い雲に押し潰されるかのように首を下に向けて歩く、一人の女子生徒。
このところ空いた時間があれば入り浸っている図書館へと、一歩一歩重い足取りで向かっている。
そう、この女子生徒、もうお馴染みの羽曳野 柚李である。
5月に行われた新入生歓迎会。
その後1ヶ月間、羽曳野柚李の視界に空が映ることはほとんどなかった。
あの舞踏会のファンキーな女性が自分であることを悟られないように、ひたすらに下を向いて人目を避けてきた。
「あ……、また間違えた」
下ばかり向いているから、道を間違えることも多い。
まるで首が折れているのではないかと思うくらいに下を向く異様な姿に、幸いにも周りの人々は柚李を避けてくれる。
なので、電柱や壁にぶつかることはあっても、人にぶつかり危害を与えることはない。
「ここは……、体育館?」
目をつぶり、眉をひそめて建物の中から聞こえる音に集中する。
シューズのキュッキュッという音を聞き、やはりここが体育館だと当たりをつけた。
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