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「龍雲寺さん、よーく見てください!まだ一匹残ってまっすよ!」
人差し指を立てて横に振りながら、チッチッチと司会者は言う。
広大な草原を見渡してみるが、さっきまでの羊の大群が柵の中に入ってしまった今となっては、ただ一面に牧草が広がっているだけである。
「どこにもいないぞ」
ウロウロと歩き回りながら確認して大きな岩の陰も覗いてみるが、蒼汰も玄樹も見つけることができなかった。
「おい、生徒会。これはイベント部を陥れるための嫌がらせじゃないのか」
手に持った棒を肩に担いだ玄樹が睨みをきかせると、顔をひきつらせた司会者が後ずさる。
「違いまっす!ほらっ!そこですよ、さっき近くまで行ってたじゃないですか!」
玄樹からだいぶ距離を取った司会者が、蒼汰の先を指さして必死に叫んだ。
「どれー?んー?…………ん?んんん?」
広大な草原に、岩。
「おい、まさか……」
一面の緑色の中に、どどーんと大きな、岩。
その岩に合わせた視線を外さずに遠巻きにぐるりと回り込みながら、蒼汰は岩の裏側に辿り着いた。
蒼汰の逆回りで辿り着いた玄樹も、想像通りの恐ろしい現実に無言のままだ。
「コレ、だな」
「コレ、だね」
お互いに目の前の岩から目を離さないまま、認識したものを確かめ合う。
その時、目の前の岩が……いや、ずっと岩だと思っていた巨大な羊が、うっすらと目を開て二人を見た。
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