43人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆっくりと……ゆっくりと深呼吸をする。
口から吸ってお腹が膨らむまで吸いきったら、今度はゆっくり時間をかけて鼻から息を出す。
正しい深呼吸の仕方をNHKの番組で見たから間違いない。
口から吸う。
鼻から出す。
息を吸うのに合わせて腕を大きく広げて、出すのに合わせて腕を体の前で交差する。
2回、3回……。
そこまでやって、ふと思う。
「あれ……?口から吸う?鼻から吸う?口から吸って鼻から出す、だったかな?」
さっきの深呼吸をなかったことにするために、デタラメに息を出し、パタパタと手で扇いで散らす。
「もう1回」
鼻から吸う。
空気をしっかり吸い込んで、少しだけ息を止める。
それからゆっくりと口から息を出す。
10回ほど繰り返して、むしろなんだか息苦しさを覚えてきた。
鼻、口、と考えるあまりに、ちゃんと呼吸ができていなかったようだ。
「よし、練習だ、練習」
ちゃんとできなかった深呼吸のせいで荒い息、昨日ほとんど眠れなかったせいで真っ赤な目。
気合いを入れてセットした髪の毛には、今時誰もしていないような大きなリボン。
それから真っ赤な口紅。
先を見越して買った真新しい制服はブカブカ。
そう、この少女こそ、この物語の主人公、羽曳野 柚李である。
最初のコメントを投稿しよう!