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「先月舞踏会で見た時より、ちょっと……ふくよかになってたし、名前も違ってたから人違いかなーって思ったんだけど、笑顔が一緒だったからやっぱり羽曳野さんだー!って思って……」
邪気のない笑顔で話を続ける千尋に、柚李の思考回路はショート寸前である。
「わ……わた……わた……」
「わた?」
挙動不審な柚李を避けることなく、優しい微笑みを見せてくれる千尋が首をかしげる。
「わた……私のこと…………知ってたんですか…………?」
中学生活で、一度も千尋と会話したことなどなかった。
まして、自分が千尋の視界に入っていたという自覚も全くない。
柚李が一方的に見つめ続けていただけで、まさか千尋が自分のことを認識しているだなんて、かけらほども思っていなかった。
「もちろん知ってるよー!確か、友達の……各務原さん?と仲良しだったよね!」
唯一の柚李の親友、鞠乃の事まで把握している。
先月の舞踏会でのあられもない姿に続き、今日演じた陽気なイタリア人までも見抜かれていたと知った柚李は、魂が抜けていくのを感じた。
「あれっ!?羽曳野さん!おーい!羽曳野さーん!!」
異変に気付いた蒼汰達が駆け寄ってくるのを目の端で捉えた柚李は、そのまま意識を手放した。
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