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時は遡り、1年前の3月の事。
「ゆずりぃ、いいの?黙ってみてるだけで」
3年生の卒業式。
柚李の親友、各務原 鞠乃は、手の半分くらいまで伸ばした制服の袖で涙を拭いながら、女子に囲まれて頭の先の方だけかろうじて見えている先輩を、離れたところからじっと見ている。
柚李の返事がないことに気づいて、鞠乃は涙でぼやける視界を柚李の方に向けた。
「ゆず……」
呼びかけながら柚李を見た鞠乃だったが、その異様さにギョッとした。
顔中のビショビショの涙を拭うことなく、柚李はただただ先輩の方を見つめて泣いている。
みんなあえて言わないが、学校一の美少女も、もうこうなれば台無しである。
「ゆずっ!柚李!さすがにちょっと顔拭きな!」
さっきまで散々鞠乃の涙を吸収してきた制服の袖で、柚李の顔も拭こうとしたけれど、涙に加えて鼻水までも垂れ流す柚李を見て鞠乃はポケットからハンカチを出した。
「う~~~~」
なんだかよく分からない言葉を発しながら、柚李はされるがままに顔を拭かれた。
「最後なんだから、柚李も気持ち伝えてみればいいのに」
もうすっかり涙が止まった鞠乃が、優しく柚李に話しかける。
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