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自分の名前がどこで呼ばれたのかと、千尋はキョロキョロしている。
混雑している駅の構内でも一際混み合っている柚李達の方に気づくと、千尋は驚いたような顔で目を見開いた。
そして、呆然と見つめている柚李と目を合わせると、顔を赤らめてからペコリとお辞儀をした。
「へえ。あれが千尋先輩?」
朱音が千尋を確認すると、ニヤニヤしながら柚李に聞いた。
「正確には、俺らと同級なんだろ。俺らには先輩じゃないじゃん」
無理やり連れてこられた玄樹も、千尋の姿をまじまじと見ていた。
「柚ちゃん!千尋先輩、イケメンじゃーん!!」
柚李の背中をバシバシと叩きながら、白蓮ははしゃいでいる。
『先輩が……私を見た……。先輩が……』
柚李は、思いがけない千尋の挨拶に放心状態だった。
同じ学校に通っていた2年間でさえ、一度も話したことも、まして目が合ったことさえないのだ。
よもや自分のことが千尋に認識されているなど、思いもしなかった。
千尋と目が合っている時間が永遠かと思えるほどだったが、不意にその姿が消えた。
「え」
目の前には、蒼汰の背中。
「柚李、あれが須賀谷 千尋か。イケメンじゃねぇか」
そして、くるりと振り向く。
「けど、俺のほうが、100億倍イケメンだな!」
今日一番の爽やかな笑顔の蒼汰を殴り飛ばしてやろうかと思う、柚李だった。
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