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「三人目ですか。高収入ですもんね、三浦さん」
その言い方だと、金しかいいところがないみたいだ。
悔しいが容姿に自信はない。
「なあ、頼む!」
「わかりました。その代わり、僕、月末に有給取ります。その間のサーバーエラーは三浦さんが受けてくださいね」
「えー」
「えー、じゃないです。両親の還暦祝いで瀬戸内クルーズを約束させられてるんですよ。課長に根回ししてくれるなら、鱒川を紹介します」
「わかった! 俺も男だ! 瀬戸内クルーズ、いってこい!」
かくして、ワインおたくの鱒川とやらに全3回のワイン講座を設けてもらうことになった。
◇
神田のワインバーに19時半。
そう、志村に言われて店のドアを開けた。
白い壁に、小さな現代アートがぽつぽつと飾られた洒落た店内。
間接照明に浮かび上がるカウンター。そこに細身の女が一人座っているきりで、ほかに客はない。
志村の友人が女とは聞いていないが、思いきって声をかける。
「あのう、三浦です」
女性は、初めまして、と立ち上がった。
「志村くんの先輩ですね。鱒川トリコです」
宜しくお願いします、と頭を下げると、それ以上言葉が出てこなかった。
女性だなんて。聞いてない。
女性だなんて。聞いてないぞー。
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