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「ビールでも、いいですよ」 「えっ、いやいや! ワイン、リースリングとか!」 「あ……」  彼女の顔が真顔になった。外したか? 「すみません、ワインお好きじゃないのかと思ってました」  モカさんが、上目使いに俺に微笑む。 「いえ、大好きです」 「ふふ。なんだか嬉しい」  これで後に引けなくなった。 ◇  翌週、同じ時間にワインバーへ赴くと、鱒川さんはまだ来ていなかった。  スツールによじ登ると、マスターが口の端をくいっと引き上げて、笑みのようなものを浮かべた。 「何か召し上がりますか」 「えーと、じゃあ……カベルネのやつ」 「カベルネ・ソーヴィニヨン? カベルネ・フラン?」  きれいに整った眉が美しく持ち上げられる。   「やっぱり、お薦めで」 「遅くなりました」  鱒川さんが入ってきた。  今日はロングのタイトスカート。グレーのカーディガンのボタンを一番上まで留めている。 「こんばんは。早速、ワインの知識、役にたちましたよ」  俺は、イタリアンレストランで品種を堂々指定できたことを報告した。 「ほほう」  鱒川さんの口元がほころんだ。喜んでくれたようだ。  前回もらった品種の一覧表の穴埋めテストから始める。 「これ、面白いですよね。」       
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