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変わらないね、なんて言うものだから、それはあんたもでしょう、って生意気にも言い返した。そしたら、そんなことないんだよなあ、なんて先輩らしく勿体ぶる。二十歳もとっくに越えてるのにこのやりとり、まるで高校生時代に戻ったようだと奏太は思った。
でも、それもつかの間の話。
「今度、結婚するんだ」
ハルカ先輩は、当たり前のようにそう言って笑った。
「だから、ケジメをつけたい」
ふわり、白いスカートが目の前で大きく波紋を作る。
引いては寄せる波のように周りへと広がっていくその裾を、万が一でも踏まないように意識の先端に持っていきながら、奏太はその少し後ろをついていく。桜の花が染めた頬の色を散らし、若々しい青葉が太陽に向かって両手を広げ、寝起きさながらに伸びをした、春と夏の境目。
ハルカ先輩と会うのも、こうして二人きりで『デート』をするのも思い返してみればお互いが高校生の時以来だった。久しぶりに顔を合わせたハルカ先輩は奏太の記憶に残っている学生時代よりも一段と綺麗になっていて、待ち合わせ場所で思わず口をあんぐりとあけてしまい相手の苦笑を誘ってしまったのは今朝の話。変わったのは化粧だろうか、奏太とひとつしか歳が違わないはずなのに、同年代の女性よりも大人っぽい。仕草も同じく、ひとつひとつが群を抜いて女性らしさをより際立たさせている。作り物みたいな艶やかさを持つ長い黒髪と、絵に描いたように真っ白なワンピースはハルカ先輩を主役へと引き立てて、先ほどからすれ違った人たちの視線を老若男女問わず奪っては恍惚とした溜息を後に残す。ほら、ふとこちらを向いて目があった高校生くらいの男の子に、ハルカ先輩が気まぐれにウインクなんてしてみせれば、あーあ。
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