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奏太が初めてハルカ先輩に会ったのは、海沿いの街道だった。観光客向けのおしゃれなお店が並んだその白い景色の中で、ハルカ先輩は今日みたいな白いワンピースで、踵の無いパンプスで、楽しそうに歩いていた。
姉の買い物に付き合わされていた奏太はすれ違っただけだ。それだけで、思わず振り向いてしまうくらいには心を奪われた。可愛くて、綺麗な人。そのステップひとつで、ふわりと潮風に乗って空へ羽ばたいていくんじゃないかと、そう思わせる不思議な人。
「あ、あのっ…!」
人生初のナンパはたぶん、その時だ。初対面の人に話しかけるなんて無理だと思っていたのに、身体は勝手に道を引き返して、声をかけていた。
まさか、それが同じ部活の憧れの先輩だったとは微塵も思わなかったけれど。たぶん、向こうが罪悪感からか先に暴露してくれなかったら、奏太は今でも気付かなかったに違いない。しかし玉砕にも程があったが。
ベルトが無くても、魔法のコンパクトケースが無くても、お化粧だけでいくらでも変身出来るのは姉を見ていたから知っていた。でも、知っていただけだ。本領発揮すれば、毎日顔を合わせているハルカ先輩すらも別人に見えるのだと、身を持って学んだのもこの日だ。
あの日から奏太は、ハルカ先輩と秘密を共有している。
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