再会

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 ハルカ先輩は缶を受け取ると、蓋を開けたまま足下に置いた。それから、自分の小振りの肩掛け鞄を手に取ると、中からメイク落としのシートを取り出し、一枚を白い手のひらで引き抜く。視線はまっすぐ前、ちょうど部屋にかかっていた全身を映し出す鏡に向けられていた。  元々白い肌を、さらに滑らかに魅せていたファンデーションが、春の色のチークごとぬぐい取られて。カラン、クッキー缶の中に今年の春限定モデルだとかいう桜色のケースが下地のチューブと一緒に落とされる。  羨ましいと奏太の姉が言っていた長いまつげの上に乗せられた夜の色が、するりと落ちて。瞼を飾っていた水色は、白いシートに天の川を写し取って。コロン、まだ真新しいマスカラともうすぐ中身を使い切るアイシャドーもまた、ファンデーションの後を追う。  きっと、誰もが引かれたであろう口紅の艶やかさも、もう既に無く。カタカタン、何種類もある口紅やグロスが、缶の中の隙間を埋めていく。  マニキュア、コンシーラー、ハイライト。まるで、呪文みたいな、宝石みたいなそれら。  ハルカ先輩が丁寧に、ひとつひとつ、魔法を解いていく。解く度に、クッキー缶の中身が変身道具で埋まっていく。それをじっと、奏太は眺めていた。ハルカ先輩のお気に入りの白いワンピースが、ぱさりと乾いた音をたてて床に落ちるところも、奏太は目をそらすことなくずっと見ていた。  だって、これが最後ならば、誰かがハルカ先輩を覚えていなければいけないのだ。その役目を負うために、奏太はハルカ先輩に選ばれた。  やがて、下着姿になった先輩が、奏太がじっと見つめていたことに気付いて、こちらをからかうような表情で口を開いた。 「何ずっと見てるんだよ、えっち」  口紅が剥げ、口調もまた素の色が見え始めた先輩のおどけたような物言いに、奏太は首をすくめる。同時に、ぱさりと長い黒髪が床に落ちていったのを視界に捉えながら、奏太は曖昧に笑ってみせた。 「…遙先輩」  先ほどまで奏太とデートしていた少女の形をしたものは既にその場にいなかった。十二時にもなっていないのに魔法が解けてしまった今、奏太の目の前で笑っているのは、正真正銘、高校時代からの憧れの先輩だ。 「……それ、パンイチの野郎に言われても嬉しくないです」
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