エイスマンの休日

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 私の名は東八郎という。でも、世間的にはエイスマンと呼ばれているといったほうが分かりやすいだろう。  ああ、大ヒットしたアニメや漫画になった”エイトマン”のモデルになった存在である。もっとも、私の本質は強化人間だ。漫画のように内蔵された超小型原子炉の作る大電力で動くのでも、電子頭脳に死んだ人間の記憶を移植したスーパーロボットでもない。  ただし、自分が”一度は死んだ人間”ということは認めざるをえない。殉職した私を、谷博士が強化手術によって強引に蘇生させたのだ。それが”大きなお世話”であろうとなかろうと、生き返ってしまった自分としてはそれを甘んじて受け止めるしかないわけで。それを悩んで、首をつろうと思ったことは一度もない。  むしろ、もう二度と死ぬまいと思っているのも事実だ。とにかく、谷博士の施した強化手術によって、わたしは、超人になった。  あの漫画、私のうわさを基に作られたワリには、わたしの”性能”をよく把握していた。よほどか取材したのだろう。これが偶然だったら、漫画家・・まあ、話を作っているのは原作者のほうらしいが・・はよほどな超能力でも持っていると考えるしかない。  サイボーグといっていいのかわからないが、わたしの体の中には谷博士が発明した秘密の武器が、いくつも内蔵されているのも事実だからだ。まあ、退屈な自己紹介もほどほどにしないと、読者諸氏には怒られるばかりだから、これくらいにしておこう。  今、わたしは休暇をもらって、エドメガロポリスに戻ってきたのだった。  いったい、何年ぶりだろうか。十年近くになるかもしれない。その間に、ずいぶんと大きくなっていた。江戸湾の海底から直接に超高層のビル群を建設し、それを道でつないだ、人工都市。 「ケン・ヒガシ・・さん、アメリカ合州国二級書記官。結構です。よい旅を」日本人の係官は、身分証とわたしの顔を交互に確認すると、流暢な英語でわたしに言った。 「ありがとう」  空港では、アメリカの”外交官特権”を使って、すべての検閲をパスする。今の私は、そういう存在なのだ。  私が、長らくふるさとの日本を離れていたことには、わけがある。それは、一月ほど前NYでであった男の一言が大きい。  その男の名は、犬神明。 日本人のルポ・ライターだ。
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