エイスマンの休日

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 その名前、諸君も聞いたことがあるのではないか。つい最近、米の有力紙に”ユニバーサル・アラムコの不正”を暴露した記事を書いたからだ。  世界有数の巨大武器産業のユニバーサルAが、武器を売るために世界各国でどのような暗躍をもって人々の対立をあおって紛争にまで運ぶかをあきらかにした衝撃作。すでに今年のピュリッツァー賞の呼び声も高かった。実は、その前に、私は、彼と出会っているのだった。  私は、ユニバーサルAの事実上の秘密基地と化した研究所に囚われの身になっていた彼を救い出した。そのときの出来事は、また別の機会に語ることにして、その際に犬神明が言ったのだ。 「私が、関サチコ嬢を捨てたのだ」と。 ”そうではない”と、わたしは言下に否定した。  むしろ、わたしは、彼女のために身を引いたのだから。そうだろう?わたしのような”生きている死人”が、彼女を幸せに出来るはずもなかろう。ある事件において、サチコさんは、わたしがエイスマンであることに気づいてしまった。それを”潮”に、わたしは、彼女の前から姿を消すことにしたのだ。  それを考えれば、サチコさんの前から姿を消したのは確かに、10年は前のことになるだろう。  わたしは、犬神明の言葉が気になって、日本に戻ってきたのだ。  サチコさんが、幸せにやっていることだけを確認したら、アメリカの谷博士の元に戻るつもりだった。 サチコさんも、それまでのかかわりで、エイスマンが超人だが、その能力を手に入れるために、彼は”死人にならなければならなかった”ことを熟知していた。そんな彼女が、わたしがそのエイスマンであることを知ってしまった。彼女にとって、わたしは”マヌケな探偵長”から”世にも恐ろしい怪物”になってしまったのである。サチコさんは、わたしを恐れ、そして悲鳴を上げた。  犬神にも言ったが、わたしはサチコさんの、その変化を目の当たりにして、それを、恐れた。  愛する・・とは言わないが、わたしに好意を持った人間が、わたしを”生きている死人”と知って、恐怖する姿を二度と見たくないと感じるようになるには十分だった。  彼はそれをトラウマといったが、まあいい、わたしにはそれで傷つくような、柔なタマではないという自覚はある。  ただ、今のサチコさんが、幸せになってくれていれば、それでいいのだ。そうすれば、私の選択が正しかった証明になる。
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