エイスマンの休日

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「それを解決するのに忙しくて、とても、日本にまで手が回らなくなってしまったというだけのことなのですから、なにしろ、世界広しといえども、エイスマンは、わたし一人なのですから」 「確かに、エイスマンを必要とするSOSはいくらでもあっただろう。しかし、その中で、どの事件をレスキューに向かうかを決めるのは、おまえさんだったと聞いている」 「それは・・・」 「そうだ。おまえさんは、なんだかんだと理由をつけて、日本の事件はピックアップしなかった。それに暇なときでもね。もっと難易度の低い事件を選んで出向いた」 「それも、谷博士の?」 「ああ、そうだ。これでも、谷博士にレスキューの依頼を出せる人間の一人だったわけだからね。なぜ、そのSOSに応えられないのかを知る権利くらいはあるはずだ、違うかね」 「そんなはずは・・・」 「そう言ってはなんだが、おまえさんが、サチコさんの件で傷ついたのは分かる。しかし、それならば、サチコさんの前に出なければいいだけのことではないか。それなのに、どうして、日本を、われわれを捨てたのだ、エイス、いや、東八郎?」 「だから、わたしは、日本を見捨てた覚えはありません。それは、田中課長の誤解だ、いや、誤解です」 「とすれば、おまえさんには、その自覚が無いということか」 「だから、自覚も何も、そんなつもりは」 「では、本当にないのならば、どうだ、手伝ってくれないか、東」 「事件、ですか」 「ああ、大事件だ、だから、今、ここには、誰も居らん」 「・・・そんな大事件が起ったのなら、どうして、教えてくれなかったのですか」 「教えてもいいが、助けに来てくれたか」 「それは・・状況にも寄りますが」 「ふん、そうやっておまえさんは、また逃げるのじゃろ。そこだ、おまえさんのそこが、問題なのだ。なぜ、ためらうのだ、東」 「それは・・」白人の大人の姿をした東八郎は、何か途方に暮れたように言った。 「なぜだ、東」田中課長は、もう一度言った。「おまえさんは、日本を見捨てたんだよ、なぜだ」 「・・なぜ、日本は、よくならないのです?」不意に、東八郎は言った。「あんなに働いたのに。一度死んで、生き返ってまで、死にそうな目にあって、それでもなお、がんばったのに。犯罪は、まったく終わらない、なくならない」東八郎は、思わず、そこにあった応接椅子に座り込んで、頭を抱えた。
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