第二章 薄明光線

8/10
前へ
/49ページ
次へ
 柚希の必死さに聡明はため息をついた。 「・・・どうして?」  柚希は明確な理由があるわけでもなかったが、心にモヤモヤと溜まるものを吐き出した。 「あの夜の喧嘩の後から、何かわかんないけど・・・・」  その様子に聡明も首を傾げながらであるが、何かあるのかもと思い始めていた。 「・・・大丈夫だよ。言ってみて」 「笑わないでよ」  柚希はそう前置きすると、言いにくそうに口を開いた。 「あたし、小さい時からパパの匂いが大好きだったの」  聡明が小さくフッと笑った。 「笑わないでって言ったのに!」  柚希は口と尖らせて、聡明を睨む。 「いや、俺も父親の匂いが好きだったなって」  聡明は少し照れながら、そう言った。 「聡明も?」 「うん。なんか安心したんだよね。・・・もう覚えてないけど」 「そっか・・・」  遠い目をする聡明に、柚希は幼い頃に会った聡明の父親を思い出す。あまりよく覚えてはいないが、思えば印象は聡明と似ていたかもしれない。 「俺の話はいいから・・・」  聡明は恥ずかしそうに笑った。柚希もホッとして話を続ける。 「うん、それがね・・・パパの匂いが急に変わったの」 「どんな風に?」  聡明は柚希の顔を覗き込んだ。 「獣臭いの・・・」     
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加