1.墓泥棒の娘

12/23
前へ
/252ページ
次へ
「ヤ……、ヤダ……、やめろ……」  精一杯の抵抗が、この凍える声だった。  人目を気にして武器は出してこないが、そんな必要もないようだと完全にバカにした目でハギを見ている。  体を車の後部座席に押し込まれた。  ハギは恐怖で縮こまり、全身で震えた。  男の一人が言った。 「さっきの鍵を出しな」 「鍵って、何の事?」 「黄金の鍵だ。それを出せ。出せば、何もしないで帰してやる」  もう一人がニヤニヤしながら脅してきた。 「抵抗するなら、お前の死体が川に浮くぞ」 「………………」  ハギは、瞬時に思考を巡らせて対策を考えた。 (手元にはフーシの短剣がある。これで二人を刺せるだろうか?)  一人はなんとかなっても、もう一人の反撃はかわせないだろう。 (懐の財布を車外に投げて、気を逸らせている間に逃げ出せるだろうか?)  ハギはちらりと車窓に視線を向けたが、誰もが関わらない様に見てみぬふりをしていく。  そいつらが持ち逃げするだけのようだ。 (叫んで助けを求められるだろうか?)  金のなさそうな子どもを助けたところで、いいことなどない。  むしろ、自分が狙われると判断してあっさりと見捨てていくだけ。 (どれもダメ……)  通行人が警察に通報したら、困るのはハギも同じ。  黄金の鍵の入手先を聞かれて正直に墓から盗んだと言えば、フーシまで巻き込む大騒動になってしまう。  警察を騙しきれるほど、根性が据わった盗人じゃない。  他人の介入なしでこのピンチを乗り切るには、戦うか騙すか素直に渡すか。 (こいつらに渡すのは悔しい!)  黄金の鍵は、今の自分にあるたった一つの希望だ。絶対に渡したくない。 (やってやる!)  ハギは、戦うことを選んだ。  助かる見込みの一番低いバカな選択だと、笑いたければ笑うがいい。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加