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手元の短剣を掴み、素早く抜いて男の腹を突き刺したが、肉を切る手ごたえはなかった、
「これは……」
男は服の下に革のプロテクターを着けていて、ハギの短剣では刃が立たなかった。
ハギの殺意が伝わると、男たちの目の色が変わった。
「短剣を抜きやがったな!」
「お前、死ぬ覚悟があるんだな!」
「ク……」
男は、短剣を振り回そうとするハギの腕を掴むんで力を込めた。
「じゃあ、死ね。死体になってから、ゆっくりといただこう」
ハギの鼻と口を手でふさいだ。
大きくて肉厚の手か顔半分を覆う。
「ウ……、ググ……」
「窒息で気絶させ、川に放り込めば溺死体のできあがりってね」
(殺される……)
ハギの気が遠くなる。
その時、車のドアが開いた。
腕が一本ニュッと入ってきたかと思うと、男の首に腕を回した。
「ウガ!」
頸動脈を締め上げたまま、力ずくで外に引きずり出して地面に投げつけた。
男の身体は勢いついてゴロゴロと転がっていき、川まで到達して落ちてしまった。
もう一方の男が怒鳴った。
「お前、何者だ!」
青年が顔を見せた。
深い錆色の瞳。端正な顔立ち。そして、冷酷な表情。
無表情のまま、腰の短剣の紋章をわざと男に見せた。
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