1.墓泥棒の娘

13/23
前へ
/252ページ
次へ
 手元の短剣を掴み、素早く抜いて男の腹を突き刺したが、肉を切る手ごたえはなかった、 「これは……」  男は服の下に革のプロテクターを着けていて、ハギの短剣では刃が立たなかった。  ハギの殺意が伝わると、男たちの目の色が変わった。 「短剣を抜きやがったな!」 「お前、死ぬ覚悟があるんだな!」 「ク……」  男は、短剣を振り回そうとするハギの腕を掴むんで力を込めた。 「じゃあ、死ね。死体になってから、ゆっくりといただこう」  ハギの鼻と口を手でふさいだ。  大きくて肉厚の手か顔半分を覆う。 「ウ……、ググ……」 「窒息で気絶させ、川に放り込めば溺死体のできあがりってね」 (殺される……)  ハギの気が遠くなる。  その時、車のドアが開いた。  腕が一本ニュッと入ってきたかと思うと、男の首に腕を回した。 「ウガ!」  頸動脈を締め上げたまま、力ずくで外に引きずり出して地面に投げつけた。  男の身体は勢いついてゴロゴロと転がっていき、川まで到達して落ちてしまった。  もう一方の男が怒鳴った。 「お前、何者だ!」  青年が顔を見せた。  深い錆色の瞳。端正な顔立ち。そして、冷酷な表情。  無表情のまま、腰の短剣の紋章をわざと男に見せた。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加