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(この紋章……。似ている……)
黄金の鍵の紋章と、とても似ているとハギは気づいた。
男がワンテンポ遅れてハッと気づいて叫んだ。
「その紋章は、特官!?」
特官とは特別官吏の略で、王直属の特別組織に所属する。
あらゆる公権力を超越した特権を独占するが、極悪非道の悪鬼集団ともいわれている。
警察と違って賄賂は効かない。
捕まれば、非人道的な拷問によって、まともな体で帰れるものはいないと言われている。
特官を敵に回すなど、この国では無駄な抵抗。
そんなことをすれば、ここで生きて行けずよその国へ逃げるしかない。
このように、犯罪がらみの人間なら特官の名を聞いただけで縮み上がってしまう。
つまり、盗賊のハギにとっても敵である。
さきほどまであった男の威勢がみるみるうちに萎んで無くなった。
「なんで、滅多に表に出てこない特官が?」
王政転覆を狙う革命家や政治犯を主に捕まえる特官が、なぜこのようなところにいて、自分たちの邪魔をするのか理解に苦しんでいる。
通常は警察の職務だからだ。
「その子を放せ。抵抗すると逮捕する」
「へ、へへ……。わかりました。俺たちはこの坊主に道案内を頼もうとしていただけなんですよ。本当です」
男がヘラヘラと言い訳しながらハギを放すと、特官がハギの手を引っ張って車外に出してくれた。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
戸惑うハギは、震える声でお礼を言った。
その間に、川から戻った男を乗せて車が逃げていった。
「あ、逃げちゃいました!」
「逃げ足の速い奴らだ」
それを目で追う特官は、思った以上に若くて青年というより少年のようだ。
ハギとそんなに年も離れていなさそうだ。
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