1.墓泥棒の娘

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「名前は?」 「ハギ」 「女の子の君が、こんなところを一人で歩くととても危ない。家まで送ろう」  やっぱり、信じていない。 「い、いや! 俺は男です! 気遣い不要です!」  緊張して不自然な受け答えになってしまった。 「そういえば、君の短剣がないね」  特官は、ハギの帯に差し込まれた鞘が空であることを指摘した。 「あ! あれ? 短剣がない! さっきまであって……」  驚いたハギは、キョロキョロと自分の周囲を探したが見当たらない。 「車の中で使って……。落として……。あ、あのまま持って行かれた!」  ハギの短剣を乗せたまま、男たちの車は走り去っていた。  特官が気の毒そうに言った。 「警察に紛失届を出すかい? 出てくる可能性は極めて低いが」 「いえ、諦めます……」  届を出せばフーシに知られる。  鍵さえ無事なら、あとはどうでもいい。 「それでも家族には怒られるだろう。僕も家族に事情を説明しよう」 (とんでもない!)  それだけは阻止しなければならない。 「いえ、大丈夫です! これ以上ご迷惑をお掛けできません! 一人で帰れます! 危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!」  これ以上、特官を巻き込むのは危険と判断して丁寧に断り、何度も頭を下げると急いでその場を離れた。  ハギを見送ると、特官は近くの店を一軒一軒尋ねて回った。 「ハギという子がこなかったか?」  老店主の金細工屋までたどり着くのに、それほど時間も手間も掛からなかった。
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