1.墓泥棒の娘

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(誰?)  薄目を開けて見てみると、エンモが薄明りの中でハギのタンスをあさっている。  そのことを知っても、ハギは驚かない。  なぜなら、こうなることは予想できたからだ。  最初から、鍵を売ったお金を横取りするつもりだったのだろう。  エンモならやりかねないと警戒していた。  母親の違う姉妹。お互い憎んではいないが、好きでもない。お金を盗ることに罪の意識はない。  ばれたらフーシに怒られる。それが嫌なだけだ。  エンモは、お金が無くなってもフーシに知られたくなくてハギが泣き寝入りするところまで計算しての行動だろう。  エンモが、いつかここから逃げるための資金をフーシに内緒で貯めていることをハギは知っている。  ハギもエンモの立場なら、必死になってお金を貯めただろう。  だから、その事を知っても黙っていた。  ダミシュからは、情報とは別にフーシに内緒のお金まで貰っている。  フーシは女にお金など必要ないと考えている。知られたら、全て取り上げられる。  ダミシュは、エンモに好意を寄せている。  その事を利用して貢がせている。  だから、黙って逃げたら恨まれるんじゃないかとも心配していた。    「ない……、ない……。どこに隠した?」  エンモは、必死にハギの荷物をあさり続けた。  ハギがウソを吐いて大金をどこかに隠していると、エンモはエンモで疑っているようだ。 (どうせ、見つかりはしない)  大金などないし、鍵は身に着けている。  ハギは、鍵をしっかり握りしめて寝た振りを続けた。  エンモの立場に同情しないわけではない。  だけど、逃げられては困るのだ。  エンモがいなくなったら、ダミシュと寝るのは自分になる可能性が高いからだ。  オリとハギの婚約を解消して、オリには別の妹をあてがえばいい。  それが、フーシのやり方だ。  お互いに恋愛感情があるわけではないので、その申し出があっても、オリは反対しないと思う。  むしろ、もっと若くなるのだから不満はないはず。  ダミシュのような醜くて小汚い男と寝たくない。  エンモには悪いが、逃げられると困る。  今のままが、ハギにとっては都合よい。
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