2.特官デスモディウム

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 ハギの許嫁であるオリは、月に一度はハギの顔を見に家まで来る。  許嫁とはいえ自由にデートできないオリの不満を解消しようと、フーシが食事に招待しているからだ。  食事中はハギがオリとフーシの間に入っておもてなしをするが、オリは隣にいるハギに直接話しかけることはない。  ハギに聞きたいことは、フーシを通すことになっている。  オリはかなり不満のようだが、デートもしたくない、会話もしたくないハギにとってはありがたいルールだ。  オリとフーシは、酒を酌み交わしながら国内の情勢談義をするのが好きだ。 「景気はどうですか?」 「まあまあだね」  ハギは。お酌しながら二人の会話を黙って聞く。 「最近の売れ筋はなんですか?」 「金かな。このところ、価格が跳ね上がっている」 「騒乱時には金が高くなると聞いたことがあります。どこかで戦争準備でもしているのかもしれませんね」  政治、経済、流行、儲け話、派閥抗争など、いくらでも話題は尽きないらしい。  フーシは、表向きの職業を貿易商と名乗っている。  オリはフーシの裏稼業を知らない。  実際、仕入れたものをよそに売っているのだから、間違いではないのかもしれない。  ただ、仕入れ方が非合法なだけ。  オリの方と言えば、賭場の胴元と金貸業の父の仕事を継ぐべく修業中の身。  こちらも人の恨みを買いやすい仕事ではあるが、国から許可を受けているだけ墓泥棒よりマシだ。  オリはとても背が高く、切れ長の目に、通った鼻筋。かなりいい男の部類にはいる。  エンモが料理の皿を持ってくるたびに、オリの横顔をフーシに見つからぬよう意味ありげに見つめている。  明らかに好意の表れ。  エンモは、ハギがオリにときめかないことを不思議に思っている。 『見れば見るほどいい男。あんなにいい男なのに何にも思わないなんて。あんた、変じゃない?』  そう言われても、ときめかないものは仕方がない。
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