53人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ
ハギの許嫁であるオリは、月に一度はハギの顔を見に家まで来る。
許嫁とはいえ自由にデートできないオリの不満を解消しようと、フーシが食事に招待しているからだ。
食事中はハギがオリとフーシの間に入っておもてなしをするが、オリは隣にいるハギに直接話しかけることはない。
ハギに聞きたいことは、フーシを通すことになっている。
オリはかなり不満のようだが、デートもしたくない、会話もしたくないハギにとってはありがたいルールだ。
オリとフーシは、酒を酌み交わしながら国内の情勢談義をするのが好きだ。
「景気はどうですか?」
「まあまあだね」
ハギは。お酌しながら二人の会話を黙って聞く。
「最近の売れ筋はなんですか?」
「金かな。このところ、価格が跳ね上がっている」
「騒乱時には金が高くなると聞いたことがあります。どこかで戦争準備でもしているのかもしれませんね」
政治、経済、流行、儲け話、派閥抗争など、いくらでも話題は尽きないらしい。
フーシは、表向きの職業を貿易商と名乗っている。
オリはフーシの裏稼業を知らない。
実際、仕入れたものをよそに売っているのだから、間違いではないのかもしれない。
ただ、仕入れ方が非合法なだけ。
オリの方と言えば、賭場の胴元と金貸業の父の仕事を継ぐべく修業中の身。
こちらも人の恨みを買いやすい仕事ではあるが、国から許可を受けているだけ墓泥棒よりマシだ。
オリはとても背が高く、切れ長の目に、通った鼻筋。かなりいい男の部類にはいる。
エンモが料理の皿を持ってくるたびに、オリの横顔をフーシに見つからぬよう意味ありげに見つめている。
明らかに好意の表れ。
エンモは、ハギがオリにときめかないことを不思議に思っている。
『見れば見るほどいい男。あんなにいい男なのに何にも思わないなんて。あんた、変じゃない?』
そう言われても、ときめかないものは仕方がない。
最初のコメントを投稿しよう!