2.特官デスモディウム

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 年齢が違いすぎるからだろうか。  ハギは、まだ男の人を好きになったことはない。  祭りの日に、吟遊詩人はセレナーデを奏でながら切ない詩を歌い、俳優たちは舞台の上で悲恋物語を演じる。それらを見ても感動しない。  エンモに言わせれば、『まだ子ども』なのだろう。  家族も立場も捨てて駆け落ちする話が近くで起きれば、近所のおばさんたちの井戸端会議が盛り上がる。  大人の女たちは、そういう話が大好きなのだろう。  正直言って、それらが理解できない。  他人の墓を暴く仕事をしている自分には、変わった生死観が育ってしまったのだろう。  遺体を見すぎているのかもしれない。  愛とか恋とか無縁の世界に自分はいると、いつも思っていた。  エンモは、ハギとは逆で、『あの人、素敵!』と、すぐに恋する女だ。  離婚した元夫だって、『あの人じゃなきゃ死んでやる!』と、散々騒いで結婚した。  それがあっさりと別れてしまった。  どうやら、エンモの我がままに夫が付き合いきれなくなったらしい。  ……らしいというのは、その話を第三夫人である自分の母親から聞いただけだから。  我がままで結婚したその挙句、スピード離婚。  そして、『オリだったら離婚しなかったわ』などとうそぶいている。 『ダミシュを見るたびにげんなりするわ。これがオリだったら……って、いつも思うのよ』と、ハギに向かって言ったこともある。  一緒にいると、いちいち聞かされてうんざりする。
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