2.特官デスモディウム

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(今だって、自分の存在をアピールして!)  オリがエンモを相手にすることなど、絶対にない。  それだけは、自信をもって言える。  エンモは、ドラマでも歌でも、駆け落ちや心中、身分違いの悲恋ものが大好きだ。  今も、オリと自分を結ばれぬ恋人たちに重ねあわせて見ている。  結婚も離婚も自分で決めたくせに、我が身は不幸だと嘆いている。  妄想と現実がごちゃ混ぜになっている。 ――恋だの愛だの口にする度、ハギがバカにした目で見てくるので、エンモは少し意地悪く言った。 『私のことをバカにしているでしょ。あんただって、好きな人が現れたらすぐわかるよ。自分の気持ちをコントロールできない苦しさをね』 『は? 何、言ってんの? バカみたい!』  ハギは、プイっと横を向いた。―― (好きな人が現れたらわかるとか。バカバカしい! そんなことなんてあるわけない!)  ハギの脳裏に、ふとあの特官の顔が浮かんできた。 ――深い錆色の瞳が、自分を真っ直ぐ見つめている。  想像した瞬間、顔が熱くなり胸が痛くなった。 (え……、これって、どういうこと?) 「ハッハッハ!」  フーシの大笑いで、ハギはハッと目が覚めた。 (今のは……)  初めて経験した感覚に、意味がわからず戸惑った。  顔を赤らめて俯いたハギにオリは気づいたが、心の中などもちろん知りようがない。  大人になってきたことで羞恥心が生じ、自分の隣で照れたのだと好意的に解釈した。 (この調子でいけば、2年と待たずに婚姻できるかもしれない)  オリがフーシに頼んだ。 「フーシ、そろそろハギと二人の外出を許可してもらえないだろうか? 景色の良いレストランで、美味しい料理をごちそうしたいのだが」
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