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(今だって、自分の存在をアピールして!)
オリがエンモを相手にすることなど、絶対にない。
それだけは、自信をもって言える。
エンモは、ドラマでも歌でも、駆け落ちや心中、身分違いの悲恋ものが大好きだ。
今も、オリと自分を結ばれぬ恋人たちに重ねあわせて見ている。
結婚も離婚も自分で決めたくせに、我が身は不幸だと嘆いている。
妄想と現実がごちゃ混ぜになっている。
――恋だの愛だの口にする度、ハギがバカにした目で見てくるので、エンモは少し意地悪く言った。
『私のことをバカにしているでしょ。あんただって、好きな人が現れたらすぐわかるよ。自分の気持ちをコントロールできない苦しさをね』
『は? 何、言ってんの? バカみたい!』
ハギは、プイっと横を向いた。――
(好きな人が現れたらわかるとか。バカバカしい! そんなことなんてあるわけない!)
ハギの脳裏に、ふとあの特官の顔が浮かんできた。
――深い錆色の瞳が、自分を真っ直ぐ見つめている。
想像した瞬間、顔が熱くなり胸が痛くなった。
(え……、これって、どういうこと?)
「ハッハッハ!」
フーシの大笑いで、ハギはハッと目が覚めた。
(今のは……)
初めて経験した感覚に、意味がわからず戸惑った。
顔を赤らめて俯いたハギにオリは気づいたが、心の中などもちろん知りようがない。
大人になってきたことで羞恥心が生じ、自分の隣で照れたのだと好意的に解釈した。
(この調子でいけば、2年と待たずに婚姻できるかもしれない)
オリがフーシに頼んだ。
「フーシ、そろそろハギと二人の外出を許可してもらえないだろうか? 景色の良いレストランで、美味しい料理をごちそうしたいのだが」
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