1.墓泥棒の娘

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 この夜も、最近亡くなった金持ちの墓荒らしが目的で、墓地に忍び込んでいた。  墓地には墓守のダミシュという男がいるが、そのダミシュを垂らしこんで情報を得るのは、ハギの姉エンモの仕事であった。  エンモは出戻りで子どもが二人いる。  そのため、父のフーシから命じられて、好きでもないダミシュに体を与えて情報をもらい、墓荒らしに目をつむってもらっている。  ダミシュの寝屋から帰ってくると、エンモはいつもハギに言った。 『あんたは夫でもない男に体を許しちゃいけないよ。フーシに知られたら、オリとの婚約は無くなり、相手にたくさんのお金を払わなきゃいけなくなる。そうなると、私みたいにやりたくもない仕事をあてがわれる』  ハギには、フーシが決めた許嫁がすでにいて、名をオリと言った。  オリの年齢は、26歳。  ハギが18歳になったら、結婚する手筈になっていた。  オリとの婚約はフーシが勝手に決めたこと。  アラリド王国は父権が強い封建社会であり、父の言うことは絶対で逆らえない。  娘の嫁ぎ先を父が決めることは当たり前だが、娘の幸せを願ってのことではなく、賭けの負けが嵩んで溜まった借金の代わりに娘を差し出しただけのこと。  だが、許嫁のオリがいる限りは、エンモのような仕事をさせられることはない。  それでハギも婚約を了承している。  オリに対して好きなどという恋愛感情はないが、ハギにとっては必要な存在なのだ。  オリは意外にもハギに対して好意的で、その意思を尊重してくれる。  悪い人ではないと思っている。  男前で、オリの父親は賭場の胴元だからお金もある。  その意味では、エンモはオリという許嫁がいるハギを羨ましく思っている。  ハギは、泥棒などやりたくなかったが、逆らえば殴られ、食事抜きになる。  最悪な場合は、家から追い出されるだろう。  フーシのみならず、一族に逆らって一人で生きていく自信のなかったハギは、命じられるままに働くしかなかった。
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