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弱いかもしれないが、考えただけでハギは涙が出てしまう。
「いい人と婚約できて、ハギは幸せだわ。私も幸せ」
母は、オリとの結婚がハギの幸せな未来に通じていると、心の底から信じている。
今の生活に不満があるようにも見えないから、一緒に逃げることはないだろう。
自分の下には、まだ小さい弟と妹もいる。
全員を連れていくことは無理。
5000ギンは大金だが、全員を養ったらあっという間に底をつく。
結局、ハギ一人で5000ギンを手に入れたところで、幸せになることは難しいのかもしれない。
そんなことを、お茶を飲みながら考える。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん」
「元気がないわね」
「大丈夫」
無理して笑顔を作った。
母を別宅に送ってから本宅に帰ると、第五夫人から、「来客に、これをお出しして」と、茶器一式乗せたお盆を渡された。
「エンモはいないの?」
「フーシが、子どもたちを連れてどこかに出かけろと追い出したのよ」
大事な客を迎え入れるときに、騒ぐ子どもたちを外へ追い出すのはよくあること。
「誰が来ているの?」
「知らない人。旅の商人だって」
「旅の商人って……、そんなに大事な客人なの?」
フーシが身元の不確かな旅の商人を招き入れるとは珍しいと思いながら客間にいくと、あの特官だったので、ショックでお盆をひっくり返しそうになった。
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