2.特官デスモディウム

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「ひえ!」  うろたえて、小さな悲鳴まで出た。 (な、なんでこの人がここに!? え、旅の商人って? いやいやいや……、この人、特官じゃない!)  いつまでもお茶を出さず、突っ立っているハギにフーシが注意した。 「ハギ! 失礼な態度をとらないで、きちんとご挨拶しなさい!」  首をすくめて謝った。 「ご、ごめんなさい……、いい、いらっしゃいませ……」  どうしても、声が震える。  手も震えて、カチャカチャと、カップとソーサーが音を立てる。  震えを必死に押さえて、何とか零さずお茶を出した。  フーシは、愛想笑いを客に向けた。 「躾がなってなくてお恥ずかしいが、娘のハギだ」  ハギは、心の中で叫んだ。 (ちょ、ちょっと、ちょっと! フーシ! 何、愛想笑いまでしているの!? その人、特官だから! 敵!)  旅の商人と名乗る特官と談笑するフーシ。  何が何やらわからず、頭の中が混乱した。 ――絶対に、偶然じゃない。  自分を調べてここまで来たのだろう。 (どうして、ここがわかったの?)  特官に目を着けられたら最後。絶対に、逃れることはできないと聞かされていたが、こんなに早く体験することになろうとは思わなかった。  客は、見覚えのある錆色の瞳でハギにほほ笑んだ。 「初めまして。ハギ。旅の商人をしている、デスモディウムというものです」  ハギに自分の正体を知られているのに、白々しく旅の商人を名乗っている。 (デスモディウムという名前なんだ。それにしても、旅の商人だなんてよく言えたものだわ。私が一言フーシに告げれば、ピンチになるのに!)  ピンチと考えて、ハタと思った。 (この人にとってのピンチって、どんな状況だろう?)
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