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「ハギ」
第五夫人がやってきて、家事を頼まれた。
「洗濯物を取り込んできてくれないかしら」
「はーい」
第五夫人は、頼みやすいハギに何でも言いつけてくる。
裏庭に出て、大量の服やシーツを取り込んでいると、デスモディウムの声が聴こえた。
「僕の正体を明かさなかったのは、賢明だったな」
「え?」
ドキリとして振り向くと、デスモディウムが物陰に立っていたので驚いた。
「わ! 吃驚した!」
「しー、そのままで」
ハギは、デスモディウムと話している姿を家から見られない様に、大きなシーツの影に隠れた。
「帰ったんだとばかり……」
「君ともう少し話したくて、戻ってきた」
「私と?」
「そうだ。いやあ、探した、探した」
「え?」
くだけた感じで接してきたので、ハギは意表を突かれた。
「ここを見つけるまで、ずいぶん手間が掛かったよ。この辺りでは、娘の存在を隠す家が多いんだな」
息子のいる家は、魚の形の吹き流しを軒先に掲げてまでその存在を自慢するが、娘の存在は隠されることが多い。
フーシもそうだ。娘の話を、外ではしない。
さぞかし、ここまでたどり着くのは大変だったろう。しかし、同情などしない。
「それでも、いくらか渡せば誰でも饒舌になる」
賄賂を求める住民たちに苛立ったのか、皮肉まで出てきた。
「何の用ですか?」
「君、金細工屋で黄金の鍵を売ろうとしただろ」
(ついに来た!)
「あれはどこにある?」
「え……、何の事です……か?」
「すべて包み隠さず正直に話せば、見逃してやる」
「……」
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