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ハギが反論したので、老店主は肩をすくめた。
荒ぶる声を聴いた用心棒らしい巨体の男が奥から顔を出した。
ハギに向かおうとする男を、老店主が片手で止める。
「しっかりしているね、坊や。では、50ギンでどうだ」
50ギンは牛が1頭買える値段。
そこそこの買い取り価格だが、ハギはまだ納得がいかなかった。
「もっとするだろう! これ以上、ウソを吐くなら……」
ハギは、短剣に手を乗せた。
これはこのあたりの風習で、『自分を騙そうとした場合、貴様を殺す覚悟がある』という意志表示だ。
ウソを吐いたものは、短剣で殺されても文句を言えないというルール。
嘘偽りなければ、相手も自分の短剣に手を掛けることになる。
ウソが横行するこの社会で、本音と本音をぶつけるためのもの。
双方合意せず殺し合いに発展したときは、立会人の元、一対一で決闘となる。
ハギは、老店主が短剣に手を乗せて決闘になっても勝てるとは思っていなかった。
この地で何十年も商売をしてきた男。
一筋縄ではいかないだろうし、精神的にも肉体的にも強いはず。
精一杯虚勢を張って老店主をにらんだ。
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