最終章

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「それにしてもうわさに聞いていたように綺麗な人でビックリしました」 「綺麗って?」 「瑞生さんですよ。すごい美形の素敵な人だとお伺いしていたので」  そんな風に話していたのか。もういい中年だというのに褒められる容姿に瑞生は苦く笑った。 「苦労してないってことでしょうかね」 「そんなことないでしょう」  笑った先の視線が、すべてわかっていますよと告げていた。 「須賀さんはこれそうなの?」  間に割って入った明日美はあたりをキョロキョロと見渡した。ついに禄朗との対面を果たすのだ。  以前画廊の前で会ったことがある人だと、前もって話してはあった。  瑞生のパートナーが男性だと教えても明日美はそんなに驚かなかった。男だろうが女だろうが、幸せならよかったと明日美はおおらかに受け止めてくれたようだった。  そんな懐の大きい人だから瑞生とも結婚生活を送れたのだろう。今更ながらその懐の大きさを思う。 「来るって言ってたんだけど……あ、」  遠くから人波を泳ぐように軽やかにかき分けてくる人がいる。離れていてもわかる圧倒的なオーラ。すれ違う人が一瞬気を取られ振り返っているのが見て取れた。 「禄朗!」  手をあげると気がついた禄朗は少しだけ足を早めて近づいてくる。  みんなの前に立つと、堂々とした様子で「はじめまして」と艶やかに笑った。  年を重ねても禄朗の人を引き付ける力は衰えない。さらに増した魅力にたくさんの人が釘づけになっている。 「はじめまして、須賀禄朗です」  にこやかに笑いながら抱えていた大きな花束を花に渡した。 「成人おめでとう」 「ありがとう、ございます」  受け取った花も驚きで瞬きを繰り返す。  一抱えもある大きな花束には様々な色が咲き乱れていた。これからの人生が美しい色どりに囲まれていますように、との願いが込められている。
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