娘の一言

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 その後も唯一味方になってくれたのが、隆二だった。いじめられていることは両親にも言えず、どん底にいた哲也を隆二が救ってくれたのである。隆二が介在することで、いじめはなくなった。以来、哲也は隆二と友達になり、やがて、子供ながらに、心友と思えるほどの存在になって行く。  中学生になっても、偶然二人は一年、二年と同じクラスだった。そのことが哲也の心の支えにもなっていた。おかげで学校生活は楽しいものだった。だが、 二年生の秋になって、事件は起きた。  隆二自身がいじめの対象にされたのである。正義感の強い隆二が、小学校時代に哲也を助けたように、ひどいいじめにあっていた女の子を庇ったことが原因だった。今回は相手が悪かった。もともと不良グループとしてみんなが恐れていた生徒たちだった。自分がいじめられた経験を持つ哲也にとって、隆二がどんないじめにあったかは想像に難くなかった。全身の骨が軋むような哀しみと苦しみを覚えた。  だが、隆二は決して哲也に助けを求めなかった。そのことによって、哲也までもがいじめの対象にされることを避けようという隆二の優しさだったのだろう。結局、隆二は鉄道自殺を図った。この時、哲也は人はこんなに簡単に死んでしまうものなのだと思い、泣けなかった。  残されたノートには、いじめの内容といじめの加害生徒の名が書かれ、最後に、両親に対し、自殺することを詫びると同時に育ててくれたこに対し感謝する言葉が書かれていたが、哲也のことについては何も書かれていなかった。敢えて書かなかったのだろう。そこにも隆二なりの思いがあったと、今は思う。  しかし、哲也はそんな心友を捨てた。正確に言えば、そんな生易しいものではなかった。いじめの加害生徒たちに自ら隆二の情報を流した。友を売ってでも自分を守ろうとした。そんなのが心友であるはずもない。あまりに最低で、卑劣で、愚かな行動だった。哲也は自分が再びいじめの対象になることが、どうしようもなく怖かった。それほどに、小学校時代のいじめが深いトラウマになっていた。それでも、いや、それだからこそ自分のとった行動には弁解の余地がない。    
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