30.ぼく、あゆむ

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歩はじっと子守唄に聴き入った。ママの子守唄は歩を柔らかく包み、安心した歩は意識を集中することを忘れ、いつの間にか意識が遠のいていった。 「こんにちは、ぼくコロボ。あなたのお名前は?」 不思議に思った千尋がコロボに目をやる。 すると、少し眩しそうにゆっくりと目を開けた歩が、コロボの方に顔を向けていた。 コロボは、二年ぶりに目を覚ました歩に、喋りかけていたのだ。 「え!?」 「あゆ、むくん……?」 千尋は一瞬、現実じゃなく夢を見ているようだった。 「うそ……」 千尋は慌てて全員を呼び戻す。  歩は、自分をのぞき込む顔を、ゆっくりと見回す。歩の目はまだ焦点が合わず、全てがぼんやりしている。 皆、固唾を飲んで歩を見守る。 「あゆむ……」 南美が話しかける。 「歩……」 真が話しかける。 歩の瞳は、南美と真をゆっくりと交互に見る。 室内を静寂が漂う。 歩が、思い出すように少しづつ、口を開く。 「マ……ママ…………パパ……」 そう言うと歩は、にっこりと微笑んだ。 「歩!」 南美と真が泣きながら歩の頬に手をやり、壊してはいけない大切な宝物を扱うように、優しくゆっくりと頬や髪を撫でる。 そして、南美が自分の頬を歩の頬につけ、ぎゅっと抱きしめる。 「ああ…あゆ……歩……あゆむ……」 何度も名前を繰り返す。     
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