29.兆し

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千尋がお腹をさすりながら、歩に話しかける。 「えっ?千尋さん、赤ちゃんが?」 南美が目を丸くする。 「はい。四ヶ月です。あゆむ君が、可愛がるよって、言ってくれたんですよ~」 「そう言えば南美さん、やっぱり胎教で、今から子守唄歌ってあげた方がいいですかね?」 「うん、私はそう思うな」 「じゃあ先輩、後輩ママの私に、子守唄教えてください!」 「ハハ……わかりました、千尋ママ」 そう言うと南美は、シューベルトの子守唄を口ずさんだ。涼しげなソプラノが室内を癒す。 眠れ 眠れ 母の胸に 眠れ 眠れ 母の手に こころよき歌声に むすばずや 楽し夢 眠れ 眠れ 母の胸に 眠れ 眠れ 母の手に あたたかきその袖に つつまれて 眠れやよ…… 「あ!」 千尋が声を上げ、お腹に手を当てる。 「今、蹴った、南美さん、この子蹴りました!」 「まぁ、本当?良かったわね~」 「南美さんの子守唄、すご~い!」 「こうなったら、この子にも、南美さんの子守唄ずっと聴かせようかな?南美さん、録音いい?」 「ちょっと、千尋さん、ハハハ」 賑やかになった病室で、五十嵐が一人下を向いている。千尋が気づく。     
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