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30.ぼく、あゆむ
「あれ?」
「千尋何してる、先行くぞ」
五十嵐が廊下の少し先から声をかける。
「うん。ちょっと待って、ひろちゃん……」
コロボの声に気付き、千尋が再び室内に入る。
この少し前歩は、聴き覚えのある声の方向に懸命に意識を集中していた。
いつも自分に気持ちを向けてくれる、懐かしく優しい声が聴こえる。
ママ、パパ、アニキさん、ちひろさん。この暖かい人たちが、自分をずっと呼んでくれている。
「ぼく、あそこにいかなきゃ」
歩は以前の感覚を憶い出し、光の世界に再び波長を合わせた。
しかし、何度探しても、コロボの光が無い。
歩の脳波と同調していたコロボの電子回路は破壊されたため、今のコロボでは歩とシンクロすることが出来なかった。
コロボに入れなければ、歩は意識だけが覚醒したまま、再び孤独な闇の中で過ごすことになる。コロボによって自由に動き回り、五十嵐や千尋とも仲良くなった歩にとって、意識の外の世界への入り口を断たれたことは、余りにも辛い現実だった。
それでも歩が懸命にコロボの光を探していると、ママの優しい歌声が微かに聴こえてきた。
眠れ 眠れ 母の胸に……眠れ 眠れ 母の手に……
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