31人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
真は歩の小さな手を握りしめ、静かに肩を震わせている。
五十嵐も千尋も伊達も、涙で視界がにじむ。
「マ、ママ、いた……いよ……」
「ごめん、痛かったね……でも、もう少し、ママにぎゅってさせて……」
南美は、二年分の愛を注ぐかのように、ずっと歩を抱きしめていた。
「あゆむ、俺わかるか?」
南美に促された五十嵐が、歩に顔を寄せ話しかける。
「……アニキさん」
「そうだ、アニキさんだよ、あゆむ!」
五十嵐は嬉しさの余り、歩の髪をくしゃくしゃにする。
「アニキさん……やくそく、まもったね……」
「ぼくも、まもった?」
「当たり前だろ!あゆ…お前は……男の中の……お……」
五十嵐は必死に涙を堪え、言葉にならない。
「ちひろさん…赤ちゃんは?」
「うん、すくすく育ってるよ産まれたら、いっしょに遊んであげてね」
「うん、ぼくかわいがる」
「もう……あゆむくん……いい子すぎ……ぐすっ……」
二年ぶりに目覚めた歩の体調に注意しながら、皆がすこしづつ探るように、歩と話を続けた。
五十嵐はその様子を見ながらそっと病室を抜けると、突き当りの扉を開け、外にある非常階段に出た。
束の間スマホを見つめ、母の番号を押す。
「浩行か?」
最初のコメントを投稿しよう!