30.ぼく、あゆむ

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「あ、ああ……」 「なんね?元気にしとった?」 「ああ……」 「あんた、どうしたと?」 「なんか、困っとるの?」 「いや、母ちゃん、俺…俺な……」 「……」 「……親父になる」 「……あんた、ほんとね?!」 「ああ、ほんとだ」 「そうか、あんた、立派にやっとったんね……」 「心配しとったんよ」 母の声が震えている。 「母ちゃん、長いこと心配かけてごめん……」 「そしたら、孫連れて三人でおいで」 「ああ……孫の顔、見せに、帰るから」 「待っとるよ浩行。三人分しっかり稼がないかんね」 「身体気ぃつけて、がんばり。困ったら、連絡しんしゃいね」 「あ、ああ母ちゃん……」 「今まで……ごめん……」 不義理な自分への母の温かさが心に沁み、五十嵐は電話を握ったまま、しばらく肩を震わせていた。 「あ、ひろちゃん。探したよ~」 非常階段の扉が開き、千尋が声をかける。 五十嵐を探していた千尋は、少し前から様子を見守っていた。 「早くあゆむ君のとこ行こ!」 「ああ……」 「千尋。生まれたらお袋んとこ行くから」 「うん、わかった」 五十嵐は千尋に肩を借り、病室に戻った。 室内では皆が歩とコロボに注目していた。     
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