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だから、意識が戻ってからしばらくは、自分は意識だけの存在だと思っていたし、自分以外の存在に囲まれているなんて、思ってもみなかった。
でも、ある時気がついた。
うすーくぼんやりとした光を感じる。
だけど、自分が居る場所から光源までは、遮るものが幾重にもある。
音も同じだ。
飛行機の気圧で耳が遠くなったような、音の輪郭がぼやけて近くの音が遠くに聴こえる違和感。
歩の身体はおよそ一年の間、脳と五感や手足の間で活発な情報伝達が行われていなかった。そのため、身体のあらゆる器官と脳のつながりが寸断され、錆び付いていた。
それがある日、意識のスイッチが再びONになり、脳と身体をつなぐ回路が懸命に復旧を試みていた。歩は意識だけが戻ったまま、身体が全く動かない状態にあった。
そしてある時、母が自分の名前を呼んだ気がした。
「あ……ゆ……む……」
はじめは母の声だと気づかなかった。
単語ではなく、途切れ途切れの微かな音。
しかし、聴覚よりも心が先に、母の声に反応した。
温かく懐かしい存在が僕を探してる。
心がそう感じた。
母の懐かしい声は、最初はとても遠くから微かに聞こえた。
歩は母の声に意識を集中した。
声は、すごく遠くからほんの微かに聴こえる。
だから意識が散漫になると、すぐに見失ってしまう。
聴こえた瞬間に全力で集中しないと、捉えることはできない。
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