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3.逃走
男は息を殺し、雑居ビルの薄暗い階段の裏に身を潜めた。
湿ったダンボールや、腐って悪臭を放つ生ゴミの陰に隠れ、必死に気配を消した。
全力で200メートルほどダッシュしたため、心臓は破裂しそうだ。
大量の汗が噴き出す。
膝がガクガクで、よろけて古びた階段に手をつく。錆びてざらついた鉄の感触が気色悪い。
「ぜぇ、はあっ、ぜぇ……」
息が白く漂う。
「くっせぇ……」
思わず声が漏れる。
なるべく口呼吸で悪臭を緩和しつつ
「30分……耐えろ……」
「俺はゴミだ、ゴミの一部だ……」
男はブツブツと自分に言い聞かせた。
男は追われていた。
追っ手は愚連隊と呼ばれる、チンピラだ。
正式な組織に属していないぶん、規律が無くタチが悪い。
バタバタと複数のチンピラの足音が近づいてくる。
男は湿ったダンボールを纏い、息を殺す。
「……の野郎」
「近くにいるはずだ」
チンピラたちはすぐそこで立ち止まり、男の行方を捜している。
「おらぁっ!どこだボケ!?」
ドカッ!
ガランガラン!
ガチャン!
「フギャッ??」
野良猫が逃げ出す。
首から刺青を覗かせたひときわ気性の激しい奴が、向かいのゴミ置場を無茶苦茶に蹴り始めた。
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