なんでもない話

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「よし!」と部屋を出て行った彼は、数分後、飲みきりサイズの牛乳パックを手に戻ってきた。 「俺、『コーラ一気飲みしたあと牛乳一気飲みする男』としてギネスに載るよ!」 そんなもん誰でもできるわ。しかもコーラは失敗してるじゃないか。 グビグビグビーー 「はいっ、一気できましたぁっ! ……ゲプッ!」 盛大なげっぷに、十年の恋も冷めていく。 俺の冷たい視線を感じ取ったのか、彼は手の甲で口元をぬぐい、へへへと笑った。 「そういえば最近見た映画でさぁ、」 そこから延々と語り続ける。どうして二時間の尺の内容を、四時間も語れるのか。呆れているうちに俺は寝落ちしてしまった。 そして次の日、彼は大量の旅行パンフレットを持ってきた。 「なぁ、旅行いこうぜ。どこがいい? ハリウッド行っちゃう?」 俺が飛行機乗れないの知ってんだろ。 「はいはい、わかってますよ。ならUSJで我慢するか。また入場ゲート前のホテルに連泊して朝から晩まで遊ぼうぜ」 五年前のUSJ漬けの三日間が脳裏に蘇る。あのとき、こいつは俺のテンションを無視してはしゃぎまわり、絶叫系を乗り倒し、三半規管を狂わせて倒れた。 思い出してげんなりする俺に構わず、嬉々として新しいアトラクションの話をしている。 まったく子供みたいだ。 いい歳したおっさんのくせに。 まぁ、俺もおっさんだけど。
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