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「いいんですか!?」
「別にいいですよ」
「やったぁ」
くしゃっと笑ったその顔は、昔飼っていた雑種のコロに似ていた。
映画の好みが合って話が盛り上がり、そのうち一緒に鑑賞会をするようになった。
興奮したり大笑いしたり大号泣したりと忙しない表情の変化がおもしろくて、映画よりも彼の顔ばかり見ていたら、ある日突然キスされた。
わけがわからず目を白黒させる俺に、彼は「すみません!」と土下座して、自分の気持ちを長々と吐露した。その背中はじっとりと汗ばんでいた。貼りついたシャツから透けて見えた肌を、色っぽいと思った。
「……というわけで、俺、本気なんです。だから、その……つ、つっつっつ付き合ってくださいっ!」
「別にいいけど……」
「ま、マジですか!? や、やったぁぁーー!」
彼は一世一代の大プロジェクトを成し遂げたように雄叫びをあげた。この近所迷惑甚だしい男と十年も付き合うことになるとは思わなかった。
とはいえ俺も、自覚はなかったが相当に惚れていたらしい。一年目は何をするにも一喜一憂して、離れているわずかな時間も惜しくて同棲に至った。
二年目になると少し落ち着きが出て、三年目になると心拍数がゆったりとしたリズムをとるようになり、四年目にはほぼ平熱になった。
五年目には夜の営みの回数を減らし、六年目には月に一度になり、七年目には寝室を別にした。
八年目には、別れを告げて家を出た。
けれど別れてもらえず、九年目を経て、十年目の今も、毎日のように通ってこられる日々が続いている。
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